「博物館よく来るの?」
「たまにね。好きなんだ、こういう雰囲気。昔の息吹が感じられて、その時代の一コマを現代から覗き見ている感じ。すごく好き」
小さな出土品、欠片ひとつとっても、何百年何千年前に生きていた人が使っていたものなんだと思うと、不思議な気分になる。どんな人が使っていたんだろう、どんな風に使ったんだろう、そもそもどうやって作ったのだろう、色々と想像が膨らんでワクワクするのだ。
「ふーん。覗き見って、姫乃さんエロいね」
「ちょっとそういう意味じゃないよ」
私が妄想に耽っていると、樹くんはニヤニヤとからかってきた。
エロいって、失礼な。
「わかってる、わかってる」
そう言う樹くんの顔はまだニヤニヤしていて、なんだか意地悪だ。
「もう、またからかって。樹くんなんて知らないんだから」
私は子供みたいに頬を膨らませてぷいっとそっぽを向き、樹くんを置いてさくさく歩く。エロいとか、絶対樹くんは私を揶揄ってる。
「ごめんって。ごめんなさい。姫乃さん機嫌直して」
樹くんは焦った感じで私を追いかけて来るや否や、腕を軽く引っ張ってくる。
私は樹くんから顔を背けたままだ。
「姫乃さん?」
心配そうな声で伺いを立てるものだから、何だか可愛らしく感じてしまって、逆に私は意地悪くニヤニヤと笑った。
「怒ってないよーっだ」
ガバッと顔を上げて笑って見せると、樹くんは驚いた顔をして固まった。
私を揶揄った罰なんだから。
「樹くん、びっくりした?」
「……うん」
思った以上に効果ありで、私は嬉しくなる。
「えへへ、大成功~」
今度は樹くんが頬を膨らませてそっぽを向いた。
「……その笑顔は反則でしょ」
「え? なになに~?」
ボソボソと呟く声が聞き取れなくて聞き返すも、
「なんでもないですっ! さ、行きますよ」
怒ってるのかよくわからない態度のまま、樹くんは私の背を強引に押して常設展へ入った。